DVとかモラハラから逃げたくても、怖くて逃げられないって人はたくさんいるよね。
そういう場合、自分が逃げなくても、DV夫・DV妻を遠ざける方法があるんだ。
それってどんな方法?どうやるの??
今日はその方法について、詳しく説明していくよ。
配偶者からの身体的暴力や精神的暴力に苦しんでいるというあなたは、どうにかしてこの暴力から逃れたい。このような切実な願いを持ったまま、逃れられず困っていませんか?
長引く暴力は怪我や精神的な負担だけではなく、生命の危機にも直結することもあるため、暴力から逃れる必要があります。ですが、自分の力で逃れられない。という悩みを持つ方もいますよね。
このような場合、あなたが逃れるのではなく、暴力を振るう相手に対して、あなたに近づいてはいけない、あなたの周りに近づいてはいけないという命令を出してもらえる制度があります。
それが、保護命令です。
・保護命令とはどのような物なのか
・実際に保護命令を出してもらうためにはどうしたらいいのか
・実際に保護命令を申立てた後はどのような流れで保護命令が出るのか
配偶者からの暴力からあなたを守ってもらえる保護命令は、主に身体的暴力に対して適用されるもので、精神的暴力の悩みにはなかなか対応してもらえませんが、その理由についてもご説明します。
モラハラに悩んでいる人が保護命令によらずに配偶者からの暴力から逃れるための方法についても、ご説明します。
できるだけ早く、あなたが暴力から逃れられるよう保護命令制度を活用してください。
→いつ離婚してもトラブルがないようにするためにやっておくべきたった1つのコト
目次
1.保護命令ってどういうもの?5種類ある保護命令
保護命令を出してもらうことができれば、DV夫やDV妻は近づくことができなくなるんだ。
でも、監視されてたり手紙とかSNSとかで・・・
この保護命令には5つの種類があるから、その辺も含めて説明していくよ。
まず保護命令というのがどのような制度なのかをご説明します。
保護命令は、平成13年に施行された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV法)」に基づいて定められた制度です。
この法律の第4章に保護命令についてのさまざまなことが書かれていますが、端的には配偶者からの暴力によって、生命や身体に対し、重大な危害を受ける恐れがある場合に、裁判所が被害者を保護するために、加害者に対して行う命令です。
配偶者からとご説明しましたが、内縁関係の場合も含んでいます。
婚姻届けを提出していない、事実婚の状態や、離婚により配偶者ではなくなった場合でも、引き続き暴力を受けているといった場合にも、保護命令申立て受理されれば、裁判所は命令できます。
今ある暴力から、あなたを守ってくれるのが、保護命令です。
保護命令が発せられた場合、加害者がもし命令に違反をすると刑事罰が科せられます。
この保護命令には5つの種類があり、どれもDV法第10条に定められています。
- 接近禁止命令
- 電話等禁止命令
- 子への接近禁止命令
- 親族等への接近禁止命令
- 退去命令
これら5つの命令について詳しくご紹介します。
1.接近禁止命令
暴力を受けた被害者に対するつきまとい行為や、被害者の住まい、職場の周りを徘徊するといったことを禁止する命令です。
暴力行為を行った加害者は、接近禁止命令が出されると、6ヶ月間はつきまとい行為や徘徊行為を行うことが禁じられます。
暴力を振るう相手が、被害者であるあなたの側に近づいてはいけないという命令になります。
あなたは接見禁止命令が出されれば6か月間は暴力を振るわれるかもしれない、という常に不安な状態から、暴力を振るわれる心配がないという安心な状態になります。
この間に身体や心を癒すことができますし、今後の事を考える期間に当てられますよね。
2.電話等禁止命令
実際に加害者本人が身の回りに現れなくても、今の時代は様々な方法で連絡がとれます。
このような事があると精神的に被害者は追い詰められてしまう可能性があるため、実際に加害者が被害者のそばに近寄らなくても、電話やメールなどで加害者に対して連絡を取ろうとすることを禁止する命令として、電話等禁止命令があります。
電話等禁止命令の期間は、接近禁止命令と同じ期間有効になります。
つまり、接近禁止命令が出たうえで、電話禁止命令も出るということになります。
具体的に8つの行為について禁止をしています。
- 面会の要求
- 行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又は知り得る状態に置くこと
- 著しく粗野又は乱暴な言動
- 無言電話、又は緊急やむを得ない場合を除き、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること
- 緊急やむを得ない場合を除き、午後10時から午前6時までの間に、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールを送信すること
- 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又は知り得る状態に置くこと
- 名誉を害する事項を告げ、又は知り得る状態に置くこと
- 性的羞恥心を害する事項を告げ、若しくは知り得る状態に置き、又は性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、若しくは知り得る状態に置くこと
禁止される8つの行為ですが、具体的にはどのような事なのかをご説明します。
1)面会の要求
あなたに会うことを求めることを禁止するものです。
加害者は接近禁止命令を受けているため、加害者の意思であなたに近づくことはできませんが、被害者の意思によって面会をすることは禁じられていません。
ただ、加害者が被害者であるあなたに対して、あなたが会いに来るよう求めることは禁止しています。
2)行動の監視を匂わせる
加害者はあなたの近くにいなくても、誰か別の人を使いあなたの行動を逐一監視している可能性は否定できません。
手紙などであなたに、今日はどこに行って何をしていたな。といった文章を送付したり、メールやLINE、SNSなどであなたの行動を監視していると感じさせることをしてはいけないことになっています。
このような監視された状態では、あなたは安心感を持てませんので、このような行為を禁止しています。
3)粗野・乱暴な言動
人によってはどうしても癖で粗野・乱暴な言動を行う人はいますが、それが著しい場合には、それだけでも粗野・乱暴な言動を受けた人は委縮してしまいますよね。
このような言動をすることも禁止されます。
4)無言電話
ひっきりなしに電話が鳴ったり、無言の電話はかかり続ける、白紙のFAXが着信し続けるといった事があると、精神的に非常に不安定になります。
最近ではメールやLINE、SNSなどさまざまな通信方法がありますが、これらも同じことになります。
緊急時などどうしてもやむを得ない状況を除いて、加害者は被害者に対して無言電話を掛けたり、頻繁に通信手段を用いて連続的に連絡を取ろうとすることを禁止しています。
5)深夜早朝の連絡禁止
夜10時から朝6時までの時間は、深夜早朝の時間帯です。
この時間帯に緊急時などどうしてもやむを得ない状況を除いて、通信手段を用いて連絡を取ろうとすることを禁止しています。
通常であればこの時間帯に通信を行うことがない時間帯ですし、就寝している時間帯でもあります。被害者の平穏を破るような行為になり、被害者を精神的に委縮させてしまいますので禁止されています。
6)不快な物や嫌悪を感じるものを送る行為
汚物や動物の死体など、どう考えても相手に送ることで相手が不快感を感じたり、嫌悪感を感じたりするものを送りつけたり、被害者が普段生活をしている中で知りえるような場所にあえて置くような嫌がらせ行為を禁止しています。
7)名誉棄損行為
SNSにあなたの名誉を棄損するような書き込みを行ったり、友人知人に対してあなたの名誉を傷つけるようなことを言いふらすといった事を禁止しています。
もちろん、あなたにそのようなことを行うと宣言するような行為も禁止しています。
8)リベンジポルノの禁止
夫婦で合ったり親密な関係性に合った場合、中にはあなたの裸の写真やキスをしている時の写真など、他の人には見られたくない性的な写真や動画、音声などが残っている可能性もあります。
このようなものを見せたり、拡散させるといった行為や、拡散を予告するような行為を禁止しています。いわゆるリベンジポルノ行為を禁止しています。
3.子への接近禁止命令
もし、あなたの子どもが15歳以上の場合には、子どもの同意が必要になりますが、15歳未満の場合や、子どもの同意がある場合には、加害者はあなたの周りに近づけなくなるのと同じように、あなたの子どもの周りに近づくことも禁止されます。
あなたに対する接近禁止命令とは異なり、子への接近禁止命令は加害者が子どもを連れ去ったり、子どもを連れ戻すためにあなたが加害者に合わなければならない事態を作り、あなたから近づいてくることを狙っている場合にのみ、命令が出されます。
結果的にあなたの生命や身体に重大な危機が訪れる恐れを防止するための禁止命令です。
期間は接近禁止命令の期間と同一です。
4.親族等への接近禁止命令
子どもに対する接近禁止命令と同じように、あなたの親族や、親しい間柄の人、会社の同僚など、社会生活を送るうえで密接な関係性がある人に加害者が接近し、結果的にあなたが会わざるを得ない状況を作り出さないために出されるのが親族等への接近禁止命令です。
接近禁止を定める人物が15歳未満の場合を除き、該当する人の同意が必要になります。15歳未満の場合や、成年後被後見人の場合には、法定代理人の同意が必要になります。
期間は接近禁止命令の期間と同一です。
5.退去命令
保護命令を出す時点で、被害者であるあなたと、加害者である配偶者が同居している場合、2ヶ月間加害者は本拠地としている住居から退去し、さらに住居の付近を徘徊することを禁止する命令です。
別居中の場合にはこの退去命令は適用されません。
この命令によって、加害者が自宅にいることで、別居をしたくても生活に必要なものを運び出せなかった場合でも、加害者が自宅にいてはいけないことになるため、安心して荷物を運び出せるようになります。
2.私も保護命令を出してもらえる?どうしたらいいの?
私が想像してたよりも、ずっと内容が濃いものだったわ。
じゃあもし私がDVを受けていたとして、どうやって保護命令を出してもらえばいいの?
DVもモラハラも嫌だし、逃げ出したい!って強く思っていれば大丈夫?
自分から手続きをしなくてはいけないんだよ。
保護命令がどのようなものなのかが分かり、制度を活用したい。と思ったとき、次にすべきことについてご説明します。
保護命令は裁判所が出す命令ですが、待っているだけではだめです。保護命令を出してもらうための手続きをする必要があります。
保護命令は違反をすれば刑事罰が科せられる非常に効力が強いものであるため、DVが実際にあった事や、DVを行うと脅迫されたといった事実がなければ手続きが行えません。
つまり、このような事実があることを証明する必要があります。
1.DVの事実を証明するための3つの手段
DVの事実を証明する方法としては3つの手段があります。
- 配偶者暴力相談支援センターに相談し援助や保護を求める
- 警察に相談をし、援助や保護を求める
- 公証人面前宣誓供述書を作成する
具体的にこの3つの手段についてご説明します。
1)配偶者暴力相談支援センターに相談し援助や保護を求める
配偶者暴力相談支援センターは、配偶者からの暴力の防止や被害者の保護を図るために設置されている相談機関です。
配偶者からの暴力全般に関する相談窓口で、各都道府県、さらに市区町村にも設置されています。
配偶者暴力相談支援センターという名称以外にも婦人相談所、女性センター、福祉事務所などが配偶者暴力支援センターとして指定されていることがあります。
配偶者暴力支援センターでは次のようなことを行っています。
・相談や相談機関の紹介
・カウンセリング
・被害者及び同伴者の緊急時における安全の確保や一時保護
・自立して生活することを促進するための情報提供や援助
・被害者を女住させて保護する施設(シェルター)の利用についての情報提供や援助
・保護命令制度の利用についての情報提供とその援助
まずDVに悩んでいる時に駆け込むべき相談機関といえます。
今後保護命令を発令してもらうための手続きについても相談に乗ってくれます。
婦人相談所や婦人センターというと女性だけが頼れるものと思いがちですが、今DVで悩むのは女性だけではなく男性もいます。
男性のあなたも相談を受け付けて貰えますので、DV被害に悩む場合はまず配偶者暴力支援センターを頼りましょう。
2)警察に相談をし、援助や保護を求める
DVは家庭内の問題であり、警察が関与する物ではないと過去は言われてきました。
ですが、DV被害が深刻化し、生命の危機や身体に重大な危害が加えられる恐れがある場合、それは傷害という犯罪行為です。
このような危険からあなたを守る身体保護は、警察の仕事の一つになりますので、警察に相談をして援助うや保護を求められます。
ただ、いくつかの点で注意すべきこともあります。
・警察に相談をすることで配偶者からの暴力が激しくなる
・配偶者が逮捕された場合あなたにも「犯罪者の配偶者」というレッテルが貼られる心配がある
・危機的状況でない場合には動いてもらえない可能性もある
警察が動くことで、暴力を振るった配偶者は傷害罪の被疑者として逮捕される可能性が出てきます。
あなたに暴力を振るうような相手ですから、その事実を知ってさらにあなたにたいして大きな暴力を振るう危険性もあります。
また、傷害罪の被疑者として逮捕され起訴された場合、あなたは犯罪者の配偶者となり、子どもがいた場合には、子どもも犯罪者の子どもという事になります。
被害者であると同時に加害者の家族となってしまいます。
警察は民事不介入といって、基本的に家族内のもめごとは、当事者同士で解決してもらいたい。というスタンスを持っています。
危機的状況でない場合には、動いてもらえない可能性もあります。
実は警察側にもさまざまな事情があり、単なる夫婦喧嘩くらいでは警察が介入できないという事情もあります。
配偶者が逮捕されてもいい。自分や自分の子どもの命を守りたいという強い意思を持って相談をする必要があります。
警察に相談をすると、結果的に配偶者暴力相談支援センターを紹介したり、市区町村の担当部の紹介をしたりすることになるため、今現生命の危機に直面しているといった場合を除けば、先に配偶者暴力相談センターに相談をした方が早いケースも多くなります。
3)公証人面前宣誓供述書を作成する
公証人面前宣誓供述書は、作成者が署名、署名押印または記名押印をした私文書に対して、公証人が認証を与えるために、当事者が公証人の面前で証書の記載が真実であることを宣誓し、証書に署名もしくは押印をして、その私文書を公証するものです。
かなり難しそうなものですが、あたなが配偶者から暴力を受け、生命や身体に重大な危機が起こっている(起こりそう)であることを文書として作成し、署名・押印したものに対して、これは真実です。と公証人の前で宣誓をし、公証人がその文書を証明するものです。
公証人面前宣誓供述書を作成するためには、
- 印鑑証明書(発行から3カ月以内のもの)と実印もしくは顔写真付き身分証明書と認印
- 宣誓の対象文書2通
- 公証人手数料 11,000円
が必要になります。
宣誓を行う私文書の内容が万が一虚偽であった場合には、刑事罰を受けることはありませんが、行政罰の対象にはなります。
虚偽であることを知りながら宣誓をすると、10万円以下の過料を支払う必要が出てくるため、公証人面前宣誓供述書には信用性が高く、DV被害が事実あったことを証明できる公文書となります。
2.裁判所に申し立てを行う
DV被害が事実であることを証明できる場合、次に行うのは裁判所への申し立てです。
家事事件の申し立ては、相手方が居住している地域を管轄する家庭裁判所に行うことが多くなりますが、DV被害のために保護命令を申立てる場合には、地方裁判所に対して申立て行います。
・相手方の住所を管轄する地方裁判所
・申立人の住所を管轄する地方裁判所
・相手方からの暴力や生命または身体に対する重大な危機が行われた場所を管轄する地方裁判所
申し立てる地方裁判所はこの3つのうちのどれかになります。
申立ては必ず被害者であるあなたが行わなければなりません。
親族や知人、弁護士など、代理人が代わりに申し立てを行えませんので、この点は注意が必要です。
あなた自身を守るため、あなたが行動をする必要があります。
3.申立てに必要なものは何?どのようなことを書くの?
DV夫やDV妻から逃げることはできなくても、隙をみてまずは相談しにいったらいいのね!
ちゃんと証明できるようになったら、裁判所に行くんだよ。
あと、書類も必要になるわよね?申立てに必要な書類も教えて~!
配偶者暴力支援センターに相談を行ったり、公証人面前宣誓供述書の作成を行ったりした後は、先ほどご紹介した地方裁判所に申し立てを行うことになります。
申し立てを行う時に必要なもの、そして書類に記載すべきものについてご説明します。
1.保護命令の申立てに必要になる書類など
申し立てを行う場合に必要になる書類などについてご説明します。書類としては以下の8点となります。
・配偶者暴力等に関する保護命令申立書
・手数料
・郵便切手
・当事者間の関係を証明する物(戸籍謄本や住民票など)
・暴力を証明する物(診断書や写真など)
・今後暴力を受ける可能性があるという内容を記載した陳述書
・あなた以外に接近禁止命令を出してもらいたい場合に必要になる同意書
・公証人面前宣誓供述書
一つひとつについて詳しくご説明します。
1)配偶者暴力等に関する保護命令申立書
配偶者暴力等に関する保護命令申立書の書式は裁判所のサイトからダウンロード可能です。
申し立てを行う地方裁判所によって書式に微妙な違いがあるため、申立てを行う裁判所のサイトからダウンロードをします。
地方裁判所は日本全国の都道府県に各1箇所にプラスして、函館市、旭川市、釧路市に本庁が設けられています。
PDF→http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/20140129-1.pdf
Word→http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/20140129-2.doc
書式の記載の仕方は別に詳しくご説明しますので、ここでは割愛します。
必要事項を記載した配偶者暴力等に関する保護命令申立書を2部用意します。
一部は正本と呼ばれ、もう一部は副本と呼ばれます。
同じ内容のものになるため、正本を作成後、正本をコピーして副本としても問題はありません。
2)手数料
配偶者暴力等に関する保護命令申立に必要な手数料は1,000円です。
これはどの地方裁判所でもう共通になります。
1,000円分の収入印紙を購入し、配偶者暴力等に関する保護命令申立書の正本の所定の位置に貼り付けます。
3)予納郵便切手
裁判所から当事者に向けて郵便物を送付するために使用する郵便料金をあらかじめ納める必要があります。
予納郵便切手の金額についてはそれぞれの地方裁判所によっても異なります。
また、どの郵便切手を購入して用意することが必要なのか、かなり細かい指定があるため、購入前に申し立てを行う地方裁判所に問い合わせるようにしましょう。
ここでは例として東京地方裁判所の物をご紹介します。
- 500円×2枚
- 280円×2枚
- 100円×5枚
- 50円×5枚
- 10円×17枚
- 1円×20枚
合計 2,500円分
郵便料金の変更などがあると予納郵便料金も変わってきますので、申立てを行う前に必ず裁判所に確認を行いましょう。
4)当事者間の関係を証明する物(戸籍謄本や住民票など)
以前は配偶者暴力等に関する保護命令申立を行えるのは、戸籍上の婚姻関係があった場合のみでしたが、今は事実婚の場合や、申立人と相手方がともに生活をしている関係であれば、申立てを行えるようになりました。
そのため、戸籍などでは分からないものの、申立てを行える人物であるのかということを証明するための書類が必要になります。
法律上の夫婦である(婚姻届けを出し戸籍上夫婦となっている)方は、戸籍謄本を用意します。
事実婚であり、婚姻届けは出していない場合には、当事者双方の住民票や公正証書にした結婚契約書、同性パートナーシップ証明書などです。
同棲中であっても事実婚とまでいかない、同性パートナーシップ証明書などはないという場合には、生活の本拠地で撮影された交際時の写真や、賃貸契約書の写し、電気料金や水道料金、電話料金の支払い請求書の写しなど、同じ住居で一緒に暮らしていたことが第三者から見ても分かる資料を用意します。
5)暴力を証明する物
今まであなたが暴力を受けたことを証明するための資料が必要です。
医師の診断書をはじめ、受傷部位の写真や動画、本人や第三者の証言といったものを用意します。
6)今後暴力を受ける可能性があるという内容を記載した陳述書
今現在は暴力を受けていなくても、相手から今後暴力を受ける可能性がある、脅迫をされていることを証明するための資料が必要です。
本人や第三者からの証言や、音声録音、手紙、電子メールなど、脅迫行為が行われていることが分かるものを提出します。
7)あなた以外に接近禁止命令を出してもらいたい場合に必要になる同意書
保護命令では、基本としてあなたに対する接近禁止命令が出されます。
同時にあなたの子どもや、親族、近親者、会社の人など、社会的にあなたとの関係性が深く、子どもや親族、近親者に近づくことで、あなたを呼び寄せようとする、危害を加える危険性がある場合には、子どもや親族、近親者などについても接近禁止命令を出してもらえます。
a.子どもへの接近禁止命令を求める場合
子どもに対して接近禁止命令を求める場合で、子どもが15歳以上の場合には、子どもの同意書が必要になります。
同意書は子どもが署名をする必要があるため、署名が子ども本人の物であるのを確かめるために、学校のテストや手紙など、子どもが署名を行った書面なども同時に提出を求められます。
b.親族等近親者への接近禁止命令を求める場合
接近禁止命令の対象になる対象者の同意書が必要になります。
もし対象者が15歳未満の場合や、成年被後見人の場合には、対象者の法定代理人の同意書となります。
同意書には対象者本人の署名押印が必要です。
署名が本人の物であるか確認するために、手紙や印鑑証明書、パスポートの署名欄のコピーなどが必要になります。
また、対象者とあなたとの関係を証明する書類も必要です。
例えば、あなたの親に対して接近禁止命令を出してもらいたいのであれば、親子関係を証明するために戸籍謄本を提出する。
会社関係者の場合には、あなたと対象者が同じ会社に勤務していることが分かる社員証や健康保険証などになります。
法定代理人が同意書を作成する場合には、法定代理人の資格証明書の提出も必要です。
15歳未満の甥や姪が対象者となる場合などは、法定代理人はその親です。
親であることを証明する戸籍謄本などを用意することになります。
さらに、どうして対象者に対する接近禁止命令が必要なのかということも明らかにする必要があります。
この書類は対象者が作成する陳述書などになります。
同意書の内容などは後でさらに詳しくご紹介します。
8)公証人面前宣誓供述書
配偶者暴力等に関する保護命令申立を行うためには、基本として配偶者暴力相談支援センターや警察へ相談し、援助や保護を求めていることが必要です。
ですが、事前に相談をしていない場合には、公証人面前宣誓供述書を添付することでも申立てを行えます。
事前相談をしていない場合には、公証人面前宣誓供述書を用意しましょう。
2.配偶者暴力等に関する保護命令申立書に記載する内容
いよいよ申立書の記載を行っていきます。
先ほど紹介した東京地方裁判所の申立書の例に沿って、ご紹介します。
1)当事者の氏名と住所
申立書1枚目には、申立人の氏名と押印をする部分があります。さらに8枚目に、当事者目録があります。
ここに、郵便番号、住所、氏名を申立人であるあなたの分と、相手方となる配偶者(加害者)の分を記載します。
2)申立ての趣旨
申立ての趣旨は5つの保護命令の内容が記載されていますので、□内にレをつけていくことになります。
・退去命令
・接近禁止命令
・子への接近禁止命令
・親族等への接近禁止命令
・電話等禁止命令
この5つの中で、保護命令を出してもらいたい命令の左側にある□にレをつけます。
退去命令を出してもらいたい場合には、9枚目に退去を求める住所を記載します。
子への接近禁止命令を求めるときには、2枚目に接近禁止を求める子の氏名と生年月日、満年齢を記載します。さらに、6枚目に、子への接近禁止命令を求める事情を記載します。
親族等への接近禁止を求めるときには、2枚目に接近禁止を求める対象者の氏名と生年月日、申立人との関係を記載します。さらに、6枚目に対象者に対する接近禁止命令を求める事情を記載さいます。
電話等禁止命令を出してもらいたい場合には、7枚目にその事情を記載します。
3)申立ての理由
配偶者暴力等に関する保護命令申立を行う理由について記載をしていきます。
a.申立人と相手方の関係
婚姻届けを出している場合には、いつ婚姻届けを出した夫婦なのか届け出日を記載します。
事実婚の場合には、いつから事実婚として生活をしているかの日付を記載します。
婚姻届けも出さず、事実婚とまで言えない場合は、いつから交際関係にあるのか、逆に交際関係をいつ解消したのか。ともに生活をしてきた生活の本拠地の場所などを記載します。共同生活の実態が、婚姻関係(事実婚も含む)と同じようなものである事情も記載します。
過去法律上の婚姻関係にあったものの、すでに離婚している場合には、離婚届を出した日付を記載します。
b.同居を開始した日と現在の状況
あなたと相手方が同居を介した日付や、今現在どのような状況にあるのかを記載します。
今現在の状況については、今同居をしているのか、一時的に避難している場合には、いつから避難しているのか。
別居をしている場合には、いつから別居をしているのかの日付を記載します。
4)今まで受けた暴力や生命・身体に対する脅迫の内容
いつ、どこで、どのような暴力を相手から受けたのかという事を記載していきます。
また、その暴力によって受けた被害の内容を記載し、医師の治療を受けたかどのような受傷を受けた事の証拠となるものについて記載します。
4枚目の終わりから5枚目にかけてがこの項目の記載欄となりますが、記載欄が足りない場合には、5枚目をコピーして使用することになります。
5)今後相手方から暴力を振るわれ、あなたの生命や身体に重大な危害を受けるおそれがあると思う理由
くりかえし暴力を振るうそぶりを見せるといったことや、手紙や電子メールで脅迫をしてくる、職場などに押しかけて脅迫をするといった内容を記載します。
6)配偶者暴力相談支援センターまたは警察へ相談を求めた事実
あなたが配偶者暴力相談支援センターや警察にいつ相談をしたのか、どのような相談を行ったのか、相談を行ったことでどのような措置を受けたのかを記載します。
相談機関や相談内容、措置の内容についてはすでに記載がある内容の左側の□にレをつけます。そのほかは日付や時間の記載が主になります。
3.子への接近禁止命令申立てのための同意書
書式は同意書に記載した日付と、住所、氏名、生年月日、申立人の氏名と相手方の氏名を記載する物になります。子どもの氏名は、必ず子ども本人が記載する必要があります。
PDF→http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/100013.pdf
Word→http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/100012.doc
本人が記載したことを証明するために、学校のテストや本人が記載した手紙などを添付する必要があります。
押印する印鑑はスタンプ式の物を除き、申立人が仕様する印鑑とは別の物を使用します。
4.親族等への接近禁止申立てのための同意書
書式は子への接近禁止命令の同意書とほぼ同じですが、対象者が申立人や相手方に住所を知らせていない場合には、職場や学校の所在地や名称を記載することができます。
PDF→http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/100015.pdf
Word→http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/100014.doc
氏名は本人の自署が必要で、対象者が15歳未満の場合や成年被後見人の場合には、本人の氏名の下に法定代理人の氏名を表示して、法定代理人本人が署名押印する必要があります。
かならず対象者本人の自署であることを証明できる書類の添付が必要です。
5.陳述書
陳述書はあなたが受けた暴力の内容や今後受ける可能性がある暴力について、時系列に沿って記載をしていくものです。裁判所では証拠資料として扱われます。
PDF→http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/20411003.pdf
Word→http://www.courts.go.jp/tokyo/vcms_lf/20411003.doc
申立書にも暴力の内容や今後受ける暴力について記載する欄がありますが、陳述書はより詳細に、あなたがうけた暴力の内容を裁判官に分かってもらうための書類です。
申立書の記載欄は限りがあり、もしあなたが非常に激しい暴力を受けた場合には、書ききれない可能性があります。より詳細な暴力の事実を記載することで、その暴力の激しさを裁判官に伝えられます。
今後受ける暴力についても、同じです。
陳述書はあなたが記載するだけではなく、第三者があなたの状態を裁判官に伝えるためにも使えます。
例えば、同居している親族が、あなたが受けた暴力の実態を裁判所に伝える際も、陳述書に記載をして貰い、証拠として提出する。というように使います。
申立書では書ききれない詳細な事実を陳述書に記載をして提出をしましょう。
どうしても記載内容が分からない場合には、配偶者暴力相談支援センターに相談をしたり、地方裁判所に問い合わせを行えば教えてもらえます。
一人で悩まずに、さまざまな機関に頼るようにしていきましょう。
4.申立てから保護命令が出るまでの流れ。保護命令に違反したらどうなる?
でもこれをちゃんと揃えて申立てて、保護命令を出してもらうことができれば安心できるものね。
ちなみに、保護命令は申立ててからその日に出してもらえるの?
それに、もしリリ子さんが旦那さんからDVを受けていたとしたら、もしかしたら旦那さんが保護命令を破るかもしれないって不安になるんじゃないかな?
じゃあ次は、保護命令がいつ出されるのか、保護命令が破られるとどうなるのかについて説明するよ。
DVに悩むあなたにとって、保護命令を申立てたあと、どのくらいで実際に保護命令を出してもらえるのかは非常に気になる部分ですよね。
さらに、せっかく保護命令を出してもらっても、相手がその命令を破る可能性についても気になります。何も罰則などなければ、相手は簡単に命令に違反しそう。という心配も出てきます。
ここでは保護命令の申し立てから実際に保護命令が出るまでの流れをご説明します。そして、保護命令を破った場合の罰則の有無や罰則の内容についても触れていきます。
1.基本的には2週間以内に保護命令が発令される
申立人にとっては、生命や身体に重大な危機から自分を守るために行う保護命令の申し立てですので、離婚調停などのように、調停の申し立てから最初の調停まで1ヵ月かかったり、結論が出るまでに半年もかかるようでは困ります。
そのため、裁判所でも迅速な処理が必要な案件として、申立てから命令を発令するかどうかの判断を下すまでに、基本的には2週間ほどで結論が出ます。
1)申立人の面接
配偶者暴力等に関する保護命令申立書をはじめとした、申立て書類に不備がなく、事件として受理してもらえると、裁判官が実際に申し立てを行った人と面接を行い、詳しい内容について聞かれます。
申立てを行う裁判所によって、申立てを行ったと当日に面接を行って貰えるケースもありますが、おおむね翌日~3日以内に面接を受けることになります。
裁判所によっては申立てから1週間ほどかかるケースもあります。
面接の時間は2時間~3時間程度かかりますので、時間に余裕を持つ必要があります。
また当日に面接を行ってもらいたい場合には、事前に地上裁判所に連絡をして、配偶者暴力等に関する保護命令申し立てを行いたいことを伝えておけば、対応してもらえる可能性もあります。
自分がどのような暴力を受け、また今後暴力を受ける可能性があるのかを、申立書や陳述書にも記載をしていますが、自分の口から裁判官にしっかりと伝えることが大切です。
保護命令は決して安易にだせる命令ではありませんので、裁判官も慎重に判断をしていきます。
裁判官にあなたが危機的な状況にあることをしっかりと分かってもらい、保護命令を出すことが必要であるという判断をしてもらうためのプレゼンテーションだと思ってください。
2)相手方に対する審尋
一方的に申立てを行った人の意見を聞くだけではなく、裁判所では相手方であるDVの加害者からの意見も聞きます。大よそ申立人の面接日から1週間後に相手方の話を聞く審尋が行われます。
裁判所では原則公開で行われる口頭弁論と、非公開で行われる審尋という二つの方法のどちらかで、相手方からの意見を聞くことになりますが、配偶者暴力等に関する保護命令申立書の場合には、非公開の審尋で行われることが多くなります。
相手方の意見を聞くと、裁判官は即日もしくは翌日には、保護命令を発令するか、申立てを却下するかを判断します。
3)保護命令の発令
裁判官が保護命令を発令することが妥当であると判断すれば、直ちに保護命令が発令されます。
保護命令が発令されると、あなたや相手方に対して保護命令が発令されたことが通知され、さらにあなたの住所・居所を管轄する都道府県警察の本部長又は警視総監に対して命令内容が通知されます。
あなたが相談をしていた配偶者暴力相談支援センターに対しても通知が行われます。
・あなた
・相手方
・警察
・配偶者暴力相談支援センター
この4カ所に通知が届き、退去命令は2ヶ月間、その他の命令は6ヶ月間、保護命令の効力が生じます。
4)保護命令が却下された場合
平成13年に施行されたDV防止法ですが、施行から平成22年12月までに裁判所には約2万3100件の保護命令の申し立てがあり、そのうち約1万8300件について保護命令が実際に発令されています。
→出典URL:http://www.courts.go.jp/saiban/wadai/2306/index.html
約79%の割合で保護命令が発令されていることになります。
ですが、逆に約21%は保護命令が発令されなかったことになります。
取り下げといって申立人が申立てを取り消すこともありますが、中には保護命令を発令するに至らないと判断され、申立てを却下されてしまうケースもあります。
取り下げの場合には申立人の意思で取り下げるので問題はないのですが、却下となった場合で、保護命令どうしても発令してもらいたい時は、管轄の高等裁判所に対して即時抗告が行えます。
即時抗告は決定より1週間以内に抗告状を地方裁判所に提出することになります。
裁判官によっても判断が分かれることもあるので、却下となり即時抗告を行い、高等裁判所で保護命令を勝ち取れる例もあります。
2.保護命令に従わなかった場合はどうなるのか
保護命令を出してもらっても、相手がその命令に背き、あなたに接近してきたり、退去命令が出ているのに自宅に居座る、電話等禁止命令が出ているのに緊急とは言えない連絡をしてくる場合には、どうなるのでしょうか。
DV防止法によって保護命令が出ているのにもかかわらず、命令に従わない場合には、刑事罰が科せられることになります。
この時の刑事罰の内容は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。
”第二十九条 保護命令に違反した者は1年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する”
→配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律
この法律に基づいて、命令に違反する場合には、逮捕・勾留が考えられます。
1)逮捕→送検→勾留で最大23日間留置所に
DV防止法によって定められている保護命令を破り保護命令違反で逮捕されると、まず警察署に連行されます。
そして、警察署内にある「留置所」に留め置かれ、逮捕後48時間以内に検察官の元に「送検」されることになります。
送検されたのち、裁判所に連行され、裁判官から勾留質問を受けたのち、裁判官が勾留決定を行います。送検後に勾留決定まで24時間以内に行うこととされています。
勾留が決まると10日間は原則として警察署の留置所内に留置され、さらに10日間留置期間の延長が行われる可能性があるので、最大23日間、被疑者として勾留される可能性が出てきます。
2)検察が起訴すれば裁判に
勾留されたからと言って必ずしも1年以下の懲役や100万円以下の罰金が科せられるわけではありません。
検察が起訴するか、起訴しないかによって、被告として刑事裁判を受けることになるのか、前科などがない状態で釈放されるかに分かれます。
起訴された場合、刑事裁判にて罰金刑、執行猶予付き、保護観察付執行猶予、実刑などの刑事罰が決定されることになります。
過去の例で、実際に実刑判決が出ているものがあります。
平成15年に甲府地方裁判所においてDV防止法に基づき保護命令が発令されたにも関わらず、命令に違反し妻の居住場所をはいかいしたものでした。
平成16年3月2日に甲府地方裁判所での裁判により、この夫に対し、懲役8ヵ月、執行猶予3年間の実刑判決が出ています。
内閣府男女共同参画局が発表した「いわゆるDV法(保護命令)違反事件の受理処理の概況」によると、DV防止法が施行された平成13年10月13日から、平成18年3月31日までに報告された保護命令違反件数は200件あったそうです。
このうち不起訴となったのは33件にとどまり、残り166件は起訴され、公判となったのは107件、うち実刑判決を受けたのは28件、執行猶予付き判決となったのは68件、平成18年3月31日現在で公判継続中が13件となったそうです。
保護命令違反の数は、保護命令が発令された数に比べ少ない点を考えると、保護命令はかなり強い抑止力を持つものと感じられます。
3)もし相手方が保護命令違反を犯したら
保護命令が発令されていることは、あなたが相談をした警察や配偶者暴力相談支援センターにも通知されていますので、まずは警察や配偶者暴力相談支援センターに速やかに連絡をしましょう。
これ以上あなた自身が怖い思いをする必要はありません。さらなる暴力や、生命や身体が重大な危機にさらされないためにも、いち早く連絡をしましょう。
5.保護命令が適用されない。どうしてモラハラは保護命令が出にくいのか
それなら保護命令も破られにくいし、すぐに通報すればいいのね!
一つだけ注意してほしいのが、これはDVの場合であって、モラハラについては保護命令が認められない場合が多いんだ。
DVには、身体的虐待である暴力行為以外にも、精神的虐待といわれるモラハラも含まれます。ですが、保護命令の場合、身体的虐待に対しては認められても、モラハラは認められないことがほとんどです。
モラハラに対しては、どうして保護命令が認められないのでしょうか。この辺りを詳しくご紹介します。
1.DV防止法は身体に対する暴力に限っている
まずDV防止法は、そもそも身体に対する暴力に限っている法律である。という点があります。
第一条にはこのような記載があります。
第一条(定義)
この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項及び第二十八条の二において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。
この条文により、精神的暴力への適応が難しくなっています。
身体的暴力と精神的暴力の違いは、やはり生命や身体に重大な危機に直結するかしないかという点にあります。もちろん、精神的暴力によって、将来的にうつ病やPTSDといった重大な後遺障害が残ってしまう可能性もあります。
ですが、生命の危機とまでは言えないというのが、現在の判断基準になっています。
保護命令は、命令を出された人の行動を制限する命令となります。
これは憲法22条に規定されている、居住の自由、移転の自由に相反する命令になります。
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
居住の自由、移転の自由というのは、人身の自由、つまり公共の福祉に反しなければ、どこに行くのも自由ですし、どこで暮らすことも自由であると、憲法では規定をしています。
ですが、保護命令では本来自由に住めるはずの住まいから退去を命令されたり、自由に妻や子どもの元に行ってもいいはずの移転の自由を制限される命令です。それだけ強い命令と言えます。
単純に被疑者を貶めるような暴言
・バカ
・アホ
・死ね
といったものに対して発令できる命令ではありません。
2.モラハラでも保護命令が出ることもある
ただ、モラハラの場合は絶対に保護命令が出ないというわけではありません。
平成14年に静岡地裁では、モラハラによる保護命令が発令されたケースもあります。
1)静岡地裁平成14年7月19日決定の判例
この判例では、長年に渡り暴言を受け続けてきた妻が、夫に対して保護命令を請求したものです。
・お前は使うことだけできて働けない無能な女だ
・家事なんて仕事のうちじゃない
・物を買いすぎる。1日1000円でも使い過ぎだ
・死ね
このような暴言を毎日のように浴びせられてきたそうです。
そして、別居の直前には、顔をめがけて拳を振り回し、寸止めにするということが繰り返されたという事です。
この結果、妻は心的後遺障害、つまりPTSDと診断され、重大な精神的なダメージを受けました。
この訴えに対し、静岡地裁では配偶者の暴力を認め、保護命令を発令しました。
2)認められたポイント
この判例でのポイントは、長年に渡り言葉の暴力を振るわれたモラハラがあったこと。さらに重大な後遺障害であるPTSDと診断されているという点です。
モラハラにより、心身に有害な影響が及ぼされたと認定され、保護命令が発令されたと考えられます。
モラハラでの保護命令は、このような深刻な状態に陥らなければ難しいともいえます。
3.モラハラはあきらめないといけないのか?
モラハラによるDVでは保護命令が出ない。と諦める必要はありません。
実際にモラハラを受け続けていると、あなた自身が重大な心身に有害な影響を受けているかの判断がつけられなくなっている可能性があります。
さらに、今の状態が続けば、うつ病やPTSDなどを発症する危険性もあります。
まずは、配偶者暴力相談支援センターに相談をすることが必要です。状況に応じた支援を受けられるかもしれません。
警察ではもしかしたら、身体的暴力がない状態の場合には、保護命令は難しいと判断されてしまう可能性がありますが、DV被害に詳しい弁護士であれば、あなたの状況に応じたアドバイスをしてくれる可能性もあります。
モラハラはダメと思いこまず、配偶者暴力相談支援センターに相談に行く、弁護士に相談をしてみる、警察に相談をするなど、必ずSOSを発信するようにしましょう。
4.別居をすることも一つの手段
モラハラの状況次第では、どうしても保護命令の発令が難しい場合には、別居を検討することも必要です。あなたの心を守り、心が疲れてしまうことで身体にも変調が出てくる前に、逃げることも大切です。
逃げる前には、モラハラの証拠をしっかりと集めることは忘れないようにしましょう。
- 暴言の内容を音声として録音しておくこと
- 暴言を浴び去られた心境を記録した日記
- すでに精神科や心療内科を受診した場合は診断書
このような証拠を集めておくことで、あなたが別居を決意したのは、あなたの我儘などではなく、相手に非があった事が分かります。
別居は悪意の遺棄といって、本来同居をして相互扶助をすべき夫婦の義務を果たしていないことを理由とした離婚原因になる可能性があります。
ですが、モラハラやDVを受けたことで別居をするのは、当然の行動であり、悪意の遺棄に当てはまりません。
別居によって離婚となった場合でも、あなたが悪いのではありません。ここは安心してください。
モラハラが原因で別居、離婚となった場合に、あなたが慰謝料の請求をされる心配はありません。
まずは別居し、心の傷をいやすことに専念しましょう。
離婚を決め、慰謝料を請求したい時や証拠集めをしたい時には、こちらの記事も参考にしてみてくださいね。
→【DV・モラハラ】被害者のあなたがすべき証拠集めと慰謝料請求
まとめ
でも、モラハラの場合もあきらめる必要はないし、積極的に相談したほうがいいのね。
それに、思い切って別居することも、自分を助けることになるよ。
自分の人生を大切にして、幸せに生きていかなきゃね。
あなたの生命や、将来起こりえる身体に対する重大な危機を避けるためにも、今配偶者からの暴力や、恋人・パートナーからの暴力に悩んでいる場合には、できるだけ早く配偶者暴力相談支援センターか、警察に相談をして、保護命令の手続きを取るようにしましょう。
今現在はモラハラに対しては保護命令が発令されないケースが多くなっていますが、将来的にはモラハラが保護命令の対象になる可能性もあります。
かつては法律上の夫婦でなければ適用されなかった保護命令ですが、内縁関係や生計を共にする恋人同士、同性のパートナーといった範囲にまで広がっています。
身体的な暴力と同様に、精神的な暴力が原因でうつ病やPTSDなど将来重篤な後遺症が発症し、通常の生活を送れなくなってしまうモラハラに範囲が広げられる可能性もあります。実際に保護命令の改正を求める提案もされているそうです。
裁判官の判断によっては、モラハラでも保護命令が出た判例もあります。
保護命令を出してもらうためには、配偶者暴力相談支援センターか警察への相談・支援が必要ですので、まずは相談をし、SOSを発信しましょう。
今回ご紹介した「保護命令」という手段によって、あなたがいち早く今の状況を逃れ、安心して生活ができるようになることを願っています。
素朴な疑問なんだけど、DVで暴力とか暴言とかが続いてる家庭では、逃げたくても逃げられないじゃない?
そういう時って、我慢し続けないといけないの?